歯科治療や美容整形手術などを受ける目的で中南米を訪れる人が増えている。国際ジャーナリストの矢部武さんは「アメリカでは10年以上前から『医療ツーリズム』が盛んで、特にメキシコが人気だ。ただ、手術の質には問題があり、麻酔薬が原因で2人が死亡する事故も起きている」という――。
タマウリパス州警察車
写真=iStock.com/Roberto Galan
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メキシコで銃撃された米国人の医療ツーリスト

米国では10年以上前から医療ツーリズムが盛んになり、歯科治療や美容整形手術などを受ける目的で中南米、特にメキシコを訪れる人が増えている。しかし、治安があまり良くないメキシコへの旅行は危険と隣り合わせで、犯罪に巻き込まれることや、医療事故で命を落とす米国人は珍しくない。

2023年3月3日、メキシコ北部の国境付近の街、タマウリパス州マタモロスで白いミニバンを運転していた米国人4人が誘拐され、2人が死亡する事件が起きた。

4人は友人同士で、サウスカロライナ州レイクシティから約2200キロを運転してこの街に入った。4人のうちの1人のラタビア・マギーさんが整形手術を受ける予定で、3人は付き添いだったが、彼らは診療所を探していると突然、ピックアップトラックに乗って武装した男たちから銃撃を受けた。マギーさんの友人2人はその場で死亡し、近くを歩いていた30代のメキシコ人女性も撃たれて死亡したという。

麻薬組織間の抗争が激化しているメキシコではこのような事件は珍しくないが、マギーさんの一行はそれに巻き込まれたのだ。銃撃した男たちは米国のナンバープレートの車を見て、敵対する麻薬組織の密売業者と間違えたようだ。

それから4人は男たちに誘拐されたが、米国連邦捜査局(FBI)が5万ドルの懸賞金を提示するなどして懸命に捜査を行った結果、その4日後、マタモロス郊外の木造小屋で、マギーさんと友人、そして他の友人2人の遺体が発見された。

マギーさんは「お母さんのお腹の修正術」として有名な腹部の贅肉を取るタミータック手術を安く受けるためにメキシコへ行ったが、その代償はあまりにも大きかったと言わざるを得ない。